映画『ジョーカー』を観た
注意
この記事は映画『ジョーカー』のネタバレを含みます。
また、書いてある内容はすべて個人の感想です。僕自身映画の評論などに詳しいわけじゃないのでご了承ください。
昨日、10月4日に公開された映画『ジョーカー』を観てきました。
その感想を書こうと思います。
作品概要
本作はDCコミックス『バットマン』に登場するスーパーヴィラン、ジョーカーの誕生秘話です。
主人公は人々を笑わせようとコメディアンを夢見る、孤独で心優しい男アーサー。
そんな彼がなぜ悪のカリスマ、ジョーカーになったのか。一人の男が徐々に狂気に陥る過程が描かれています。
その描写の過激さと、以前に公開された『ダークナイト ライジング』のプレミア上映会で起きた銃乱射事件も合間って、海外では映画館が子供に本作を見せないよう呼びかけたり、ロス市警と米軍が警備を強化するなど、異例の対応がとられています。
そんな『ジョーカー』ですが、確かに心に刺さるものがありました。ちなみにバットマンは出てきません。
ここでは個人的にいいなと思った部分を紹介しようと思います。
- iFLYER: 映画「ジョーカー」とにかく陰惨過ぎるストーリーに影響され犯罪に走る人を懸念し、アメリカでは異例の犯罪注意警告多数
- 『ジョーカー』米国で社会現象広がる、ロス市警と米軍が警戒態勢へ ─ 各映画館が警備を強化、プレミアイベントは記者の入場禁止に | THE RIVER
主演ホアキン・フェニックスの怪演
個人的に魅力を感じた部分として、やはり主演のホアキン・フェニックスの演技は外せません。
本作は、ピエロとして働くアーサーが不良に暴力を受けるオープニングの後、カウンセリングを受けているアーサーがひたすら笑っているシーンから始まります。
アーサーは心を病んでおり、所構わず急に笑い出すという病を抱えています。
そしてその笑い方というのが、本当に苦しそうに笑うんです。
この「笑い」というものが本作の中で非常に大きな意味を持っています。
本作はジョーカーになるまでの過程を描くという性質上、大半がアーサーの描写になっていますが、その中でアーサーが心から楽しそうに笑うシーンは一度もありません。もちろん大声で笑うシーンは多々あるのですが、そのどれもが苦しげな表情で笑っています。
笑うというとてもポジティブな行為をあそこまで苦しそうに演じるホアキン・フェニックスの演技はまさに怪演でした。
何が現実なのかわからなくなる
前述したとおり、アーサーは心を病んでいます。
ストーリーはアーサーの視点で描かれます。たとえアーサーの妄想であったとしても、あたかも実際に起きているかのように描写されます。アーサーにとって救いとなる展開はことごとく妄想です。これらはストーリーの中で妄想だったと判明していくのですが、問題はそのスパンが非常に短いことです。
あるシーンが出てきて、それが妄想だと判明する。このスパンが非常に短いことで、観ている側は何が現実で何が妄想なのかわけがわからなくなってきます。今スクリーンに映されている映像が現実か妄想かはっきりとしないことで、とても不安定な気持ち悪さを心に抱えながらストーリーを追うことになります。そして、ストーリーが進むごとに気持ち悪さは増大していくのです。
むしろジョーカーになった後の方が、考えがはっきりしていて観てて清々しく、気持ちがいいくらいです。
マレーのショーに出るためにピエロのメイクを施すアーサーが見ていた母親の写真。その裏に書かれたT.Mからのメッセージが本物なのか妄想なのか、もう誰もわかりません。
ジョーカーの誕生
ピエロの仕事をクビになったアーサーは、地下鉄で絡まれた証券マン三人を拳銃で殺害します。この事件を機に、貧富の差が激しいゴッサムシティでは、ピエロの扮装をした民衆がデモを繰り広げるなど混乱が広がります。
そんな中アーサーは、母親が精神疾患を抱えていて自分が実は養子だったことが判明したり、恋人だと思っていた女性との関係が全部自分の妄想だったことが判明したりなどして、次第に狂気に陥っていきます。
自分がきっかけとなったピエロの暴動が起こるまで「自分が存在しているかもわからなかった」と語るアーサーは、自分を一人の人間として見ていなかった母親を殺害し、「自分の人生は喜劇だ」と言い放つのです。
その後、以前自分を紹介したマレーの番組から出演依頼が来るとアーサーはこれを承諾。髪を緑色に染めてピエロのメイクを施し、母親の死を悼みに来た元同僚を殺害した後、ショーへと向かいます。
家を出て階段でダンスを踊るピエロ姿のアーサー。予告編でも流れた映像ですが、その時の彼はまさに「ジョーカー」でした。
ピエロの仮面
一人の男が三人の証券マンを殺したことで、ゴッサムシティに広がる混乱。それは、どこかリアルな狂気を感じるものでした。
これは最近僕がSNSを嫌っていることにも起因していると思います。
みな一様にピエロの仮面を被って身元を隠し、匿名的な集団の中の一人としてゴッサムシティを燃やし、警官や富裕層を殺害する彼らには、現代のSNSに似たものを感じました。ゴッサムシティを埋め尽くすピエロたちは、舞台は80年代のアメリカなのに、まるで近未来を見ているかのようでした。
今回はアーサーという男が繰り返し絶望を突きつけられジョーカーが生まれ、周囲の人々にも狂気をばら撒きました。
しかしきっと、誰でもジョーカーになる可能性はあったのだと思います。人は常に細い板の上を歩いていて、バランスを崩した時にあちら側へ落ちるか、こちら側へ帰ってくるかの違いでしかない気がします。
アーサーはきっと、世界中のどこにでもいます。
まとめ
観終わった後は「とんでもない映画を観てしまった」という気持ちでいっぱいでした。
もしそこにピエロの仮面があったなら、それをつけていたかもしれません。
それくらい衝撃的で、自分の内側へ刺さってくる作品でした。好きな映画は何度も映画館で観るんですが、ちょっとこれを繰り返し観るのはきついですね。
けれど間違いなく今年の映画でトップを飾る作品の一つだと思います。