悲しいけれど、それでもこれはクウガだった。【小説 仮面ライダークウガ】
この記事は仮面ライダークウガおよび小説 仮面ライダークウガのネタバレを含みます。
僕は仮面ライダークウガが大好きです。
たぶんリアルタイムでも見ていたはずなんですけど、ちゃんと観たのは小学生くらいの頃に父親がDVDを揃えてから。
その頃はまだヒーローとしての楽しみ方しかしていなかったんですが、今考えるとなかなか考えさせられる内容だったよなぁと思います。
子供ながらに48話のクウガとダグバの戦闘は痛々しくて怖いくらいでした。
そんな僕なんですが、やっと小説版のクウガを読んで気持ちがたかまって仕方がないので感想を書こうと思います。
結論、読んでいてめちゃくちゃ悲しかったけれど、それでもこれはクウガでした。
クウガという存在
そもそも、クウガとはどういう存在だったのか。
平成最初のライダーとして作られた仮面ライダークウガ。 仮面ライダーとしての面白さはもちろんですが、真に面白いのは人間ドラマ。 子供も楽しめますが、大人になってから見た方がより楽しめるんじゃないかと個人的には思っています。
それまでの特撮では、戦いを「ヒーローが悪い怪人を倒す正義」として描いていたのに対し、クウガは戦いを「ヒーローがやっていることも、怪人がやっていることも同じ暴力」として描きます。
例えば、敵から攻撃を受けた際、特撮では「スーツから火花を飛ばして叫びながら吹っ飛ぶ」というような表現がされたりしていました。 クウガではそんなことありません。モロ怪我します。 ハンマーのようなもので殴られれば潰れますし、刺されれば血が出ます。毒を吸えば変身が解けて顔色は真っ青、唇は紫色。
暴力というものをできるだけリアルに描こうとしています。
未知の敵と戦う人間たちのドラマ、同じ人間のような姿をしているのに別の存在であるグロンギの不気味さ、仮面の下では泣いているであろう主人公五代雄介のキャラクター。 あらゆるものが僕にささってます。これがあったから仮面ライダーは平成に蘇った。
雄介の代名詞でもあるサムズアップは子供ながらに真似しました。今でも一番好きな仮面ライダーです。
13年後
本作の舞台は、未確認生命体との戦いが終わってから13年後の世界です。 本編にも登場した桜井と笹山の結婚式のシーンから始まります。
テーブルに座る一条さんの隣の席。席札に書かれた名は「五代雄介」。
なんと13年たった今でも、雄介はみんなのもとへ帰ってきていません。
時間はかかるかもしれないけど、まぁ5,6年のうちには一度くらい顔を出すんじゃないのと思っていたぼくには衝撃でした。 どんだけ心に傷を負ってるんだ雄介と。そこまで辛い戦いだったんだと。
桜子さんも今では城南大学の准教授。 結婚しておらず、研究室には1話で雄介が持ってきた魔除けの仮面が未だに飾られています。 本人曰く「災いだけじゃなくて、男運も除けてくれちゃってるみたい」とのこと。
別れ際、一条さんに「防犯上窓開けっ放しはできないから深夜に来ても入れない」と伝言を頼むのも、「窓の鍵、開けとくから」にかかっていていい。 やっぱり桜子さんもずっと雄介を待っているんだなと感じるシーンですね。
そんな中、グロンギによるものと思われる新たな事件が起こります。 一条さんはかつて共にグロンギと戦った杉田と、夏目教授の娘である実加と共に奔走します。
一条薫という男
本作は五代雄介の相棒である一条薫を主人公としてストーリーが展開されていきます。
なので基本的に一条さん視点。今まで語られることのなかった彼の生い立ちなど、意外な一面もみることができます。 マナーモードをネタにしてたのはふふってなりました。*1
13年後の一条さんは、未確認生命体関連事件の後、長野県警から警視庁に戻り海外に渡って未確認生命体対策の実際を伝え、現在は公安部外事第三課に配属されている様子。
そんな中で始終描かれるのが、彼の五代雄介に対する罪悪感、後悔。
48話で語っていた一条さんの言葉。あれが未だに彼の心の中で渦巻いています。
こんな寄り道はさせたくなかった……。
君には……冒険だけしていて欲しかった……。
仮面ライダークウガ 48話「空我」
まさにこれ。
クウガになるということは、雄介にとってとんでもないこと。 いつか自分が自分じゃなくなってしまうかもしれないという恐怖、暴力が大嫌いなのに暴力を振るわなければいけないという苦しみ。 五代は人の笑顔を守るために、そんなものとつねに戦い続けた。
彼はそのために受けた傷を癒すために旅をしている。
一条さんは、雄介にそんなことをさせてしまったことに対する責任と、もう二度と同じことはさせないという思いを胸に過ごしています。
そんな中起きた、新たなグロンギによる事件。
この事件は自分たちの力で解決しないと、また雄介にクウガとして戦わせることになってしまう。 そうすればまた雄介は傷つき、再び旅に出てしまうだろう。それは許されない。
一条さんはその一心で今回の事件に向き合います。
もうずっと雄介のことを考えてます。愛ですね。やっぱ一条さんってヒロインなんだよな。
49話のラストシーン
これは地味にショックでした。
クウガの最終話である49話。
これの何がすごいかというと、クウガが登場しません。雄介の生死もはっきりしないまま、一条さんが関わったみんなのもとを訪ねるという構成。放送時にはCMすら挟まないという本気っぷり。
そしてこの最終話のラストシーンで描かれるのが、どこかの外国で子供たちと笑う雄介です。
砂浜で寝転がり青空を眺めている雄介。遠くから現地の子供たちの遊ぶ声が聞こえ、それが次第に喧嘩になってしまう。 そこへ雄介がリュックを持って駆け寄り、ジャグリングを披露するとなかなかこれが上手く、子供たちは笑顔になる。 そしていつものサムズアップを決めたあと、また新たな場所へ旅立つ。
その後、青空のカットが入って終わります。 このシーンのバックで「青空になる」が流れているのがいいですよね。
これを観て僕は「よかった、雄介は元気に世界を冒険しているんだ」と安心し、いつか本当の意味で笑顔を取り戻す日がくると信じることができました。
けどこれ、実は一条さんが見てる夢だったんです。
いやほんとに。正直めちゃくちゃショックでした。今まで雄介は戦いの後元気に旅してるもんだと信じ続けてましたから。 その安心感が跡形もなく崩れ去るわけです。
ここの衝撃と悲しさ、そして不安はもう言葉にできません。悲しみアップポイントです。
もう1人のクウガ
本作では、雄介が変身するクウガとは別の、白いクウガが現れます。その正体は夏目実加。
実は九郎ヶ岳遺跡より以前に作られた遺跡が存在していて、そこに埋葬されていた古代のクウガから手に入れたアークルによって変身しているというもの。
しかしこのアークルに使われているアマダムはまだ不完全であり、雄介が使ったアークルに比べ心の闇を制御する力が不安定です。 そのためなんとかグロンギを封印した後、自ら命を絶ったとされており、その後に作られたアークルには心が危険な状態になると警告を発するような機能が備わったとのこと。
雄介が本編で目の黒い凄まじき戦士の幻をみたのは、この警告によるものなのかもしれません。
そもそもがまだグロンギと戦ったことがなく、さらにアマダムも不安定な状態で変身するため白いクウガなのも納得。
さらに実加は、クウガとして戦った雄介のことを「自分を犠牲にする」、「正義の塊」と称しますが、一条さんがすぐにそれを否定します。 雄介は一度も自分を犠牲にしているなんて言わなかったし、正義とも言わなかった。 ヒーローがしていることも暴力だという、仮面ライダークウガという作品に込められた想いを強く表したシーンですね。 改めて、雄介がやっていたことのすごさを思い知らされました。
実際に一度48号と対戦し勝利するんですが、その後の実加の憔悴っぷりは相当なものでした。
ラスボスにお父さんのことを侮辱された結果、目の黒い凄まじき戦士へ変貌し戦闘するシーンはぜひ実写で見たいです。
五代雄介
最後のバトルシーンで、ついに赤いクウガ、雄介が登場します。 逆にいうと、のこり十数ページというところまで登場しないんです。 基本4フォームでグロンギと戦う雄介。さすが。
そして戦いが終わった後、一条さんと背中合わせになって、顔を見ずに話します。
「遅いぞ五代! ……ですよね、一条さん」
「ばか……」
「すみません……」
「どうして謝るんだ……」
「……気づくのにも時間かかって、思い切るのにもかかっちゃったから……」
「ばか……!」小説 仮面ライダークウガ
雄介はグロンギの存在を感知したゴウラムに呼ばれて日本に戻ってくるんですが、「思い切るのにもかかっちゃったから」の部分で、戦いのために戻るということに対して葛藤があったということが示唆されています。
やっぱりまだ雄介の心の傷は癒えていないんだ……と悲しくなりました。*2
結局、雄介は戦うために戻ってきて、また変身してしまった。ただの冒険野郎としてでなく、クウガとして。 そうなってしまったら、また雄介は1人で去らなければいけなくなる。
最後、それを理解して引き止めまいと、立ち去る雄介に背中を向けたまま見送ろうとする一条さん。 その目に一気に涙が込み上げます。
ずっとずっと、雄介に自分の笑顔を取り戻してほしい、もう戦わないでいいようにと思い続けていた気持ちがせき止めきれなくなり、ついに一条さんは雄介に叫びます。
「俺は……俺はお前の笑顔が見たい! ……おまえの笑顔を取り戻せるように、俺たちは生きる! だから……行くなっ!」
小説 仮面ライダークウガ
それでも雄介は、背中を向けたまま一条さんにサムズアップして去って行きました。
あぁ、やっぱり雄介は行っちゃうんだね……。
まとめ
冒頭でも書きましたが、個人的にはとても悲しい話でした。
みんなの笑顔のために戦っていた雄介自身がまだ笑顔を取り戻せておらず、共に戦った仲間である一条さんも同様。 ほかのみんなも、雄介のことを思いながら生きています。
グロンギの残した爪痕の大きさを強く突きつけられたようでした。
それでも、やっぱりこれはクウガの物語なんだなと納得してしまいます。 会話の端々に、文章のところどころに、「あぁクウガってこんな感じだったな」と本編を思わせる空気が漂っています。
なによりクウガがほとんど出てこない。99%のシーンではクウガ出てきません。 けどだからこそ、これはグロンギとの戦いを一度終えたクウガの物語なんだなと、強く思いました。
結果的に、読んで本当によかったです。けど、読み返すことができるかは自信ないな。
仮面ライダークウガ、非常に面白いのでぜひ見てみてください。